巧者
夕方、近所のリカーショップに買い物に行った。
レジに並ぶと、僕の前の客と店員が何やら話しこんでいる。
客の方は、(たぶん)フランス人男性と日本人女性の夫婦。
どうやら買おうとしていたワインの価格が
誤って本来の価格より安く表示されていたらしく、
客の方は「表示されていた通りの価格で買わせてもらう」、
店員の方は「ミスは謝るけど、安く売るわけにはいかない」
といった内容で揉めているようだった。
なんでもいいから早く終われと静観しつつ聞き耳を立てていたのだが、
日本人妻のなかなかな強かさは少し勉強になった。
「ミスはそちらの問題であって、客である自分たちには関係ない。
表示されている価格で売り買いの契約は成立するはずだから、
この価格で買わせていただきます」
うむ、正論っぽい。
店員の方も謝罪を交え、なんとか理解を求めようとあれこれ弁解するのだが、
日本人妻はそれをフランス人夫に通訳しながら、
「それでは納得できないと申しております」
と返すばかりである。
この日本人妻は言いたいことを言いつつ、
店側の弁明を受け入れるかどうかの決定権は
自分ではなくフランス人の夫が持っているのだという
立場関係を巧みにつくっているように僕には見えた。
「スポークスマンは私だけど、決定者は夫なの。
説得したいならフランス人の夫が納得するようなことを言ってね」
というように。
恐らく店員は、「説得しなければならないのはフランス人の方か。
でも、自分はフランス語で話せないし、フランス人の価値観もよくわからん。
後ろに客を待たせてるし、もう諦めよう」
と思ったのだろう。
しぶしぶ、この夫婦の主張を受け入れ、不利益な清算をした。
「ありがとうございました」の声には
少なからず悔しさがこもっていた様に聞こえた。
この一件は店側のミスであり、この夫婦の言い分に正当性があるのだろう。
僕は違う業種で仕事をしているが、こういったミスによる損失、
あるいは日本人妻のような駆け引きによって得られる利益、
というのはビジネスマンとして常に意識しなければならないのだろうなと
改めて気づかされた一時だった。
日本人妻の店員を計っているかのような目線には軽い侮蔑が混じっていて、
反吐が出そうだったけど。
【本日のミュージック】B'z : Easy Come, Easy Go!
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